社会保障カードの厚生労働省報告書案が出たらしい

 ニュースが流れている。4案並記になっていて、内部でも議論があるということが透けて見える。

本人確認で4案併記 年金・医療・介護の社会保障カード (朝日新聞

2008年01月22日09時33分

 厚生労働省の検討会は21日、年金手帳や健康保険証、介護保険証を1枚にまとめた社会保障カード(仮称)の導入に向けた報告書案を公表した。政府は11年度の実現を目指しているが、焦点となっている本人の特定方法については、全国民に一つずつ割り振った社会保障番号の導入までには踏み込まず、各制度の被保険者番号をそのまま利用するなどの4案を併記した。

 検討会では、報告書案に対する意見を国民から公募し、今夏までにどの方式を採用するのか結論を出し、内閣官房総務省など政府内での調整を進める。カード導入については、安倍前首相時代の昨年7月にまとめて福田政権も引き継いだ政府・与党の年金記録問題対策に盛り込まれている。

 国が年金記録や健康状態などの高度の個人情報を一元的に把握することについて、プライバシー侵害や情報漏れを懸念する意見も根強い。

 このため、報告書案では、カード本体に盛り込む情報は本人確認に必要な最小限の情報に限定するとした。カードに盛り込む本人確認のデータとして、(1)各制度共通の新設の社会保障番号(2)カードにあらかじめ組み込まれる固有の識別記号(3)現行の制度別の被保険者番号(4)番号を振らず、氏名、生年月日、性別、住所の4情報――という4案を挙げた。

 当初は年金、医療、介護の加入者情報の共通データベース(DB)の構築も検討したが、一元管理への批判を考慮し、現行の制度別DBをそのまま存続させることにした。カードを使って必要な時にそのつど各制度のDBにアクセスし、情報を取得する。

 社会保障カードは、ICチップを搭載し、本人の確認に使う。利用者は自宅のパソコンの端末などに差し込み、年金の加入履歴や健康診断の結果などをいつでも調べることができる。

 行政や医療機関にとっても、データの発行事務が軽減されるうえ、窓口での即時の本人確認、手続きの漏れによる制度未加入者の把握、制度をまたがる給付の調整などが容易になるといった利点があるとした。

http://www.asahi.com/politics/update/0122/TKY200801210500.html

以下、この話題についての最近の記事。



>>「社会保障カード(仮称)への不安 年金問題のすりかえではないか」下川 悦治(OhmyNews, 2008-01-22 17:00)

  • 問題点を列挙しながら指摘する。費用対効果、セキュリティ、国家の個人情報管理など。

>>「【正論】社会学者・加藤秀俊 国民ひとり「一生一番号」に」(MSN産経ニュース、2008.1.21 02:06)

  • そうとう面白いので引用する。

スタンフォード大学を離れてからあと縁あってアメリカのあちこちの大学や研究所に招かれ、日米を往復する生活がつづいたが、どこの職場でも履歴書にはかならずこの番号を記入するのが義務であった。この番号〔ソーシャル・セキュリティ・ナンバー〕は連邦政府社会保障局で完全に管理され、それは就職や勤務先の変更にあたって記録されていたのである。たとえ1学期という短期間であっても給与所得があるかぎりこの番号は報告されていた。この番号で職歴やその期間に積み立てた掛け金が記録されているから、そのまま年金受給の証明にもなる。一定の条件をみたせば、医療保険証も送られてくる。その番号もまったくおなじ。

 だが、こんなふうにひとつの番号で個人を識別するというきわめて明快な制度にたいして日本の世論はけっして好意的ではない。いや否定的である。これまでなんべんも政府はこうした方法の導入を提案してきたが、国家が個人に番号をつけるのは「国民総背番号制」だといってみんなが反対する。なによりもマスコミが反対する。「個人情報」や「プライバシー」を国家が管理するのは怪しからぬというわけ。

 その結果、われら日本人はそれぞれに年金、健康保険、運転免許証などいくつもの番号をバラバラに持たなければならなくなっている。まことにめんどうである。

  • 最初の段落だけ読むと、まったく正反対の意見を導く例証かとも思えるのだがさにあらず、加藤氏は「せっかく住民基本台帳カードもあるのだから、それと連動して血液型、病歴までICチップに埋めこんでぜんぶ1枚のカードにいれておいてくれればなおありがたい」らしいのである。こういう人もいるのだなぁ。


>>「社会保障カードの在り方についての考察と提言」森山勉(Japan.Internet.Com, 2008年1月16日 09:00)
 -著者は「日本ユニシス株式会社 官公庁事業部 官公庁ビジネスセンター シニアコンサルタント」 
 -カードは一枚だけに。セキュリティ確保を。など




>>「電子政府は,「ICカード・ネット・家庭」の3点セットに見切りを」黒田隆明(ITPro, 2008/01/15)

  • タイトルの通りの主張。これは牟田学氏の「ICカード,インターネット,家庭のパソコンという組み合わせのサービスは,民間のサービスも含めて普及しているものは見あたらない」という指摘を踏まえている。
  • 実際、誰がICカードのリーダを買ってまで、自分の年金の記録を自分のパソコンで見ようというのか?
  • 牟田氏のブログには電子政府関係の分析記事がたくさんあり、読み応えアリ。

以下感想ですが、

 問題点としては、上のたとえば下川氏の記事などが列挙しているのがもちろんあるのだろうけれど、社会保障カードに限らずこうしたセキュリティ面での危険性って、それ以上に

  • 「転用されること」(これについては前に記事を書いた
  • 「本人にいい加減に使われること(でそれにつけ込まれること)」

の方が、実は問題だと思っている。加藤氏のようなナマグサな(失礼)方はよろしいかもしれないが、私もアメリカにいたとき、銀行口座を作るときでも電話を申し込む(加入する)ときでも、なんでもかんでもソーシャル・セキュリティ・ナンバーを要求されるのには閉口した。どれだけのものが、これで繋がってしまう(可能性をもつ)のか、と。仮に想像してみるといい。携帯を契約するにも、カードをもつにも、定期券を買うにも、診察を受けるにも、薬を買うにも、ビデオを借りるにも、すべて同一の番号の申告/記載を要求される社会。それらのデータベースは、バラバラに管理されているかもしれないが、潜在的には統合される可能性をいつももっている社会。国民として、あるいは顧客として人々を管理する側からすれば、全員に背番号があらかじめ割り振られている社会が、いかに理想的であるか。社会保障カードに一つの番号が付随した場合には、その番号の転用は間違いなく避けられないだろう。そしてそれを止めることは、厚生労働省には法的にも現実的にもできない。

 もう一つ、我々はいいかげんである、ということを前提に考えた方がよい。パスワードを、机のまわりに貼っている人、たくさんいますね。住基カードが、いまどこにしまってあるのかわからない人、たくさんいますね。それ、すでに誰かが持ち出しているかもしれない。携帯電話、知らないうちに誰か見る可能性、排除できますか。セキュリティ・ロック? え?使っているの? 制度設計や、法、アーキテクチャの面でどれだけ専門家ががんばっても、少なからぬ人々がものすごくいい加減にしかそれを使わない/使えない以上、どうやっても穴は空くのである。

 ついでにもう一つ、少し論点はズレるが、一カ所に集約して情報を管理できることはたしかに便利である。が、けっきょく、集まりすぎた情報は自分では管理などできなくなる。一枚のICカードに情報が集められれば、自分がそれを管理しているような気にはなれるかもしれない。が、実際のところそれを管理しているのはデータベースを保持するコンピュータ・ネットワークおよびその所有者・運営者たちなのである。