WikiScannerに注目したい

WikiScannerの日本語版が開設されて、ニュースサイトに記事が載ったり、方々のblogでエントリが増え始めたりしている。


>>総務省や文科省もWikipediaを編集していた 「WikiScanner」日本語版で判明 (ITMedia News)

>>WIKIScannerしてみた (少年少女科学倶楽部) ※小学館講談社によるWikipediaの編集


たぶん、今後こういうニュースは増えていくだろうし、それは健全なことだと思う。このエントリの後半で書くつもりだけど、こりゃどうかな、っていう編集の実体がある以上、一般閲覧者は「それをどんな利害関係者が書いているのか」ってことを知り得た方がいいから。

ただ、その前に書いておきたいのは、こういうのってニュース性があるから、新聞やテレビといった影響力の強いメディアでも報道されていく可能性がある。そうすると、Wikipediaそのものの〈記事作成力〉が総体としておちてしまいやしないか、ということを心配する。もちろん、上のITMediaの記事にあるように、厚労省の中の人がエロゲの記事を書いていたり、農水省の中の人がガンダムの項目を熱心に書いていたりすると、勤務時間中になにをやってるんだよ・・・と、怒りよりあきれた気持ちになる。

が、これがあまり大騒ぎになり、官公庁や企業のネットワーク運営のポリシーがものすごく厳しくなってしまうと、総体としてみたWikipediaの記事作成力、編集力、訂正力が落ちてしまう可能性がある。私としては、あまり厳しくあれもだめ、これもだめ、という方向よりも、まあちょっとぐらい(むろん程度問題だが)ガンダムやゲームや映画俳優の記事作成をやったっていいと思う。そんなのは勤務時間外にやれ、というのは正論だが、一日働いて夜帰ってきて、wikipediaガンダム項目の編集をやる、っつーのはよほどの熱意に溢れた人である。そういう人しかwikipediaに参加しないとなると、やはりwikipediaの力は落ちざるをえない。世の中には、仕事をしている人の方が多い。そうしてそういう人達は、仕事に関するエキスパートであって相応の知識を持つ。その知識がwikipediaに反映されることは、非常に好ましいことだと私は考える。ついでにそのエキスパートが、ぜんぜん関係のない鉄道やアニメの記事をちょろっと書いても、たしかに怠業ではあるけれど、まあwikipediaはそれだけ充実するし、全体の損得勘定を考えて、大目に見てやって欲しいのである。角を矯めて牛を殺すなかれ、と言いたいわけである。


文科省を見てみた

さて、まあものは試し、ということで文科省の中の人が、何を書いていたのか見てみた。すげー面白い(笑)
mext.go.jpでWikiscanした結果は以下の通り。


>>http://wikiscanner.virgil.gr/name2ip_JA.php?orgname=mext.go.jp&location=


ノートへの参加で「太陽戦隊サンバルカン」があるのはご愛敬。
本間正明氏の旅費スキャンダルをごそっと削除していたり、コミュニティスクールの記述のところで「かなり充実している」と自画自賛しているのはITMediaの既報の通り。

読み応えがあるのは、「義務教育」「中学校」のところ。

たとえば、「義務教育」の2004年8月8日 (日) 06:04の版では

義務教育という言葉を「教育を受ける義務」だとする誤解があるが、憲法の要求はあくまでも保護者が子供に教育を受けさせることであり、子どもにとって教育を受けることは権利である。

http://ja.wikipedia.org/w/index.php?diff=prev&oldid=655861

とある記述が、同2004年8月8日 (日) 23:10の版では

これを具体化する法律教育基本法及び学校教育法)により、その内容は、小学校(もしくは盲・聾・養護学校の初等部)における6年間の教育と中学校(もしくは盲・聾・養護学校の中等部、中等教育学校の前期課程)における3年間であると定められている。

となっている。よりきっちりした記述になっていて、利用者としてはこれはありがたい。
一方、上記と同じ版同士の比較だが

しかし、市民運動などもあり、教科書はただである場合がほとんどである。

とあった段落が、

なお、大日本帝国憲法下における義務教育の範囲は小学校(正確には尋常小学校。後に国民学校に変更)のみであった。

という段落に書き換えられている。市民運動云々の記述は消えて、帝国憲法時代から改良されたという側面を前面に出す記述となったことになる。

「中学校」はもっと積極的な変更をしている。夜間中学についての説明だが、2004年6月10日 (木) 01:27の版では以下のようになっている。

戦争や貧困などの事情があって、小学校や中学校の教育を受けられなかった人のために、その教育の取り戻しの世話をするために臨時に設けられたもので、大部分が一般の中学校内に併設されている。臨時の課程であって、本来はないものであり、教育基本法施行規則の中には出てこない。
在日コリアン|在日の朝鮮・韓国人や出稼ぎのブラジル人、元不登校者などにとっての重要な受け皿になっているが、原則的な入学資格が「15歳以上で、なおかつ中学校未卒業者であること」となっているため、形式的な卒業証書を持っている元不登校者は正規に入学することが不可能である。

外国人や部落問題|同和地区出身者など、ほとんど文字の読み書きができない成年の生徒も多く、そのような学齢超過者が入学できる小学校は日本にはないため、日本語教室識字教室、小学校の代替としての役割もあり、また授業時間も一般の中学校より少ないため、授業内容は学習指導要領には準拠しておらず、国語数学のように日常生活の基本となる科目を重視しており、それ以外の学科や実技科目に割り当てられる時間数は少ない。
生まれて始めて鉛筆を持つ人から、中学校途中まで履修した人まで存在し、生徒間の学力の差は大きいので、習熟度別学級になっている。

学校数は35校、生徒数は約3100人であるが、設置地域が首都圏、近畿に集中しているため、やむなく自主夜間中学が運営されている地域もある。終戦後しばらくは学齢期の生徒も通学していたが、児童労働の防止を目的として、現在では学齢超過の生徒のみに制限されている。非常にマイナーな存在であったが、1993年にヒットした山田洋次学校 (映画)で有名になった。

http://members.aol.com/yshmuto/hoshizora/ 星空の学校
http://konbanwa.web.infoseek.co.jp/ 夜間中学記録映画『こんばんは』

http://ja.wikipedia.org/w/index.php?diff=prev&oldid=445851

これが、2004年6月10日 (木) 01:49の版では以下のようになる。(比較するときはこのページで読むより、wikipediaそのものを見た方が、色分けがされていて見やすいです)

>>http://ja.wikipedia.org/w/index.php?diff=prev&oldid=445851


正確には中学校夜間学級。戦後の混乱期の中で、生活困窮などの理由から昼間に就労または家事手伝い等を余儀なくされた学齢生徒が多くいたことから、それらの生徒に義務教育の機会を提供することを目的として中学校に付設されたもの。学校教育法施行規則第25条が根拠であるが、高等学校定時制課程とは異なり、夜間に授業を行うための特別の課程等は設定されていない。
近年は外国籍の生徒や、元不登校の生徒も増えてきている。入学の大前提は義務教育未修了の者であり、すなわち、義務教育を修了した外国人が日本語を身につけることを目的として入学することはできないし、形式的にでも卒業証書を持っている元不登校者も入学することができない。

外国籍の者や部落問題|同和地区出身者など、ほとんど文字の読み書きができない成年の生徒も多く、日本語教室識字教室、小学校の代替としての役割も果たさざるを得ないのが現状。また授業時間も一般の中学校より少ないため、授業内容は中学校の学習指導要領には準拠することは難しく、国語数学のように日常生活の基本となる科目を重視しており、それ以外の学科や実技科目に割り当てられる時間数は少ない。
生まれて初めて鉛筆を持つ人から、中学校途中まで履修した人まで在籍し、生徒間の学力の差は大きいので、習熟度別学級になっている例が多い。

学校数は35校、生徒数は約3000人であるが、設置している自治体が首都圏、近畿に集中しているため、やむなく自主夜間中学が運営されている地域もある。非常にマイナーな存在であったが、1993年にヒットした山田洋次学校 (映画)で有名になった。

http://members.aol.com/yshmuto/hoshizora/ 星空の学校
http://konbanwa.web.infoseek.co.jp/ 夜間中学記録映画『こんばんは』

http://ja.wikipedia.org/w/index.php?diff=prev&oldid=445851

とくに、「在日コリアン|在日の朝鮮・韓国人や出稼ぎのブラジル人、元不登校者などにとっての重要な受け皿になっているが、原則的な入学資格が「15歳以上で、なおかつ中学校未卒業者であること」となっているため、形式的な卒業証書を持っている元不登校者は正規に入学することが不可能である」というのが、「近年は外国籍の生徒や、元不登校の生徒も増えてきている。入学の大前提は義務教育未修了の者であり、すなわち、義務教育を修了した外国人が日本語を身につけることを目的として入学することはできないし、形式的にでも卒業証書を持っている元不登校者も入学することができない」ところなどは、ほとんど文部科学省の「見解」あるいは「方針」なんじゃないだろうかと感じる。

私は夜間中学の実体にそれほど詳しくないが、そこが外国籍の人々のいくらかが日本の公的な教育サービスを受ける「受け皿」として機能しているのは確かなはずである。であるならば、この記述は「文部科学省の意向」にそった方向に再編集されたということになる。


最後に一言だけ付け加えておけば、「中の人」がイコール「組織」ではないのが普通だろうということである。つまり、この「義務教育」や「中学校」の編集に加わった人が、組織としての文部科学省を代表して書き込んでいたということではなく、おそらくはその分野に詳しく、かつwikipediaの持つ力にも意識的な人が、その職能と忠誠心?をもって、記述を変更したということだろう。もちろん、仮にそうであっても、wikipediaという多くの人が利用する事典の記述が、国家のもつ教育政策の方針に沿う方向に変えられているという事実は動かないのだが。