社会保障カード 続報

ちょっと前のエントリに続報。今日の朝日新聞に記事が大きな扱いで載っている。asahi.comから紹介しておく。

社会保障番号国民カード」導入検討 住基ネットと連携
2007年06月23日07時45分

 政府・与党は22日、年金や医療保険介護保険個人情報を一元的に管理する「社会保障番号」を11〜12年度をめどに導入し、ICチップ入りの「国民サービスカード」(仮称)を全国民に1人1枚ずつ配布する方向で本格的な検討を始めた。住民基本台帳ネットワーク住基ネット)と連携させることで今後は年金記録の入力ミスはなくなるとしており、国民は年金記録や健康診断結果などをパソコンでいつでも見られるようになる。だが国が個人情報を一元管理するようになるため、プライバシー保護の観点から論議を呼びそうだ。

 安倍首相は14日の国会答弁で「社会保障番号の早急な検討」を表明。自民、公明両党も参院選の共通公約にカード導入など、新たな年金記録管理システムの構築を盛り込む方針だ。

 計画によると、現在は別々になっている公的年金、医療、介護の各保険の加入者情報を一元化した共同データベースを構築、各制度共通の国民サービス番号(社会保障番号)を導入する。国民には年金手帳、健康保険証、介護保険証を一本化した国民サービスカードを配る。

 個人情報の漏洩(ろうえい)を防ぐため、ICチップを搭載。カードをパソコンの端末に差し込み、暗証番号や生体認証などで本人確認ができれば、年金の加入履歴や給付の見込み額、健康診断や治療を受けた際の検査結果、請求書(レセプト)などが常時、閲覧・保存・印刷できる。医療機関や介護業者の窓口でカードを示せばすぐに本人確認ができ、複数の医療機関で同じ検査を受けたり、余分な薬をもらったりすることもなくなり、医療費の抑制につながるという。

 一方、年金記録の管理については、11年度をめどに新システムを導入。現在審議中の社保庁改革関連法案でも、年金加入者の住所異動や名前変更、死亡情報などを住基ネットから取得することになっており、法案が成立すれば、届け出がなくても自動的に基礎年金番号の情報が更新される。「宙に浮いた」5000万件など過去の年金記録問題が解決するわけではないが、今後は入力ミス、入力漏れなどは発生しなくなるとみられる。

 社会保障番号の付け方については、現在20歳以上の人が持っている基礎年金番号を国民全員に拡大する案と、住基ネット住民票コードを用いる案がある。国民サービスカードについても、独自のカードを発行するか、住基カードとの一体型にするか今後検討する。

http://www.asahi.com/life/update/0623/TKY200706220439.html

正直言って、このタイミングで出してくるのは、「卑怯者!」といいたい。何もないときなら、この制度が何をやろうとしているのか、どのようなリスクがあるのかについて、そうとうな批判的意見が出て来るはずである。

が、いまや年金記録があやふやになっちゃっている問題で、ちゃんと記録しておいてもらわないと困る!という世論の雰囲気が大勢を占めている。もちろん、この意見は完全に正しい。支払っているのだから、受け取った側が記録を残すのは当然だ。

問題は、この社会保障番号の議論では、「年金の」記録の問題が、いつのまにか「社会保障全体の」記録にすり替えられていることである。年金の記録は、年金の記録として、ちゃんとつけてくれればいいのである。

一体みんな、「年金記録や健康診断結果などをパソコンでいつでも見」たいのだろうか。「年金の加入履歴や給付の見込み額」「健康診断や治療を受けた際の検査結果」「請求書(レセプト)」などを「常時、閲覧・保存・印刷」したいのだろうか? 少なくとも私個人は、こんなことが可能であったとしても、それを「いつでも」あるいは「常時」する/したいとはとうてい思えない。そういうのは必要なときに、正確な情報が手に入りさえすればいいのである。いまこれだけ大量の人が年金の確認に訪れているということは、逆に言えば、この人たちはそんなに頻繁には年金記録の確認をしてこなかったということである。私はそれが普通の感覚だと思う。

こうした記録を、自分のパソコンで手に入れられる、というのはたしかに便利だ。役所は混んでいるし、出向くのはたしかに面倒くさい。しかし、自分のパソコンに簡単に手に入っちまうような情報は、だれかのパソコンにも簡単に手に入っちまうおそれがありはしないかい。

これまでの情報漏れのパターンからして、システムそのものはある程度強固に作れ、そこから直接クラッキングなどで情報が漏れるなんてことはそうそうはないということは(幸いにも)予想できる。

が、問題はヒューマン・エラーなのである。どこの組織にも、かならず抜けた人間がいる。コピーしちゃいかんデータを私用パソコンにコピーしたり、しかもそのパソコンがウイルスに感染していたり、仕事を持ち帰ってそのままノートPCが盗まれたり(置き忘れたり(T-T))、極秘データが入っているUSBディスクを紛失したり、机の横にパスワードを貼り付けていたり、事務所の鍵を閉め忘れたり、廃棄処分にするはずのPCがなぜか再利用されていたり・・・

こういう人間を、完全になくすことは不可能である。であるから、システムは、そういう人間は必ずどこにでもいる、という前提で、設計してもらわねば困る。

一枚のICカードで、一人の人間の健康に関する情報、税金に関する情報、年金に関する情報、住民登録にかかわる情報、これら全て──あるいはもっと──が一元的に手に入ってしまう。記事の中に「生体認証」の文字が入っているのに気付かれただろうか。指紋か、手のひらか、虹彩か、顔かわからないけれど、そうした情報までもが、これらの情報と一つの番号で結びつけられる。

この情報の集積が、漏れて見知らぬ第三者の手に渡ったら、私はたいへんに不快で不安である。そして漏れる危険性は、これまでの我々の社会の経験則からして、ゼロには絶対にできないのである。だったら、こんな仕組みは最初から作るべきではない。